2023-01-01から1年間の記事一覧
世間さまはもう、休暇になっている。幼稚園だって、冬休みだ。普段うちに来てくれるようなママさんたちやカルチャーセンターの生徒さんたちはこんなときにコーヒーを飲みに来たりはしない。だけど、何となく店を開けている。息子が幼い頃は『お父さんのお仕…
いつも朝にコーヒーを飲みに来てくれている八百屋さんのお父さんが 『きょうは冬至だろ? うちのかぼちゃのいとこ煮、よかったら食べてみてよ』 と、タッパーに入れて届けてくれた。八百屋さんのお母さん、お料理上手なのよね。開けてみると、かぼちゃの皮に…
皆様、ごきげんよう。ティピカです。店の中には常連さんのルリコさんだけ。そんなときはジュンコもカウンターの中の椅子に座ってコーヒーを飲みながら、ルリコさんとお喋りをすることになっています。 カラン、コロンとドアベルが鳴って冷たい風と一緒に、着…
カラカラと引き戸が鳴って、顔を覗かせたのはショウジさんだ。毎月、近所の本屋で俳句の雑誌を買うついでに立ち寄ってくれている。 『いらっしゃいませ。新聞、見ましたよ』 ショウジさんの俳句はときどき新聞にも、載る。 『ありがとうございます。モンブラ…
先週からランチタイムの後、夕方まで甘酒を出していて、それが意外と好評をいただいている。カラン、コロンとドアベルが鳴る。ふんわりとマフラーを巻いたタケオさんがマサヨさんのためにドアを押さえている。レディーファースト、さすが『王子』と言われて…
皆様、ごきげんよう。ティピカです。雪がちらつくこの頃ですが、どうかお風邪などひきませんよう、お気をつけくださいませ。寒い日には鍋料理なんかもいいですね。おや、ティピカは猫舌じゃないの? 猫は熱いものは食べないでしょ? という声が聞こえてきそ…
夏にこの町に遊びに来て以来、タツオの伯父さんは俺のコーヒー豆を注文してくれるようになった。横浜にはうちよりも美味しい喫茶店はたくさんあるだろうに、ほぼ毎月のように電話で注文してくれる。そのときに近況を報告し合ったり、色々な土地の特産品の話…
最近よく、夕方になるとマサヨさんが息子さんのお夜食を買いに来る。 『あの子ったら、母さんのおにぎりより栞さんのサンドイッチが食べたい、なんて言うんだから』 『お母さんに喫茶店で休憩どうぞ、っていうことでしょ?』 『そうかしら? だったら素直に…
皆様、ごきげんよう。ティピカです。常連さんのイネコさんがナマケモノの絵が描かれたトートバッグからお菓子の袋を取り出して、ジュンコに手渡しています。 『ママ、こういうのって、食べる?』 『まあ、きなこねじり? 懐かしいわね』 『そう? 私、しょっ…
ヨシコが大きく伸びをした。それを見て、マドカちゃんが笑って言う。 『ヨシコさんの伸び、うちのクリタロウとそっくり』 『そう?』 『ほら』 と、マドカちゃんが携帯の中の『愛猫クリタロウ』の写真を見せている。ヨシコはよく伸びをする。『肩に力が入っ…
タケオさんがカウンターの上の編みぐるみの猫ちゃんを手のひらに載せて、ぼんやりと眺めている。その横顔をトモノリさんが不思議そうに眺めている。 『トモノリさん、お待たせしました。きょうのランチです』 『ありがとう、栞ちゃん。きのこごはん、美味し…
皆様、ごきげんよう。ティピカです。おひさまがお顔を見せてくださっていても、頬に触れる風は冷たく感じるこの頃ですね。きょうも『女子高生だったのは相当前』のジュンコとルリコさんがマドレーヌをお茶請けにコーヒーを飲みながら、お喋りをしています。…
ガラガラと引き戸が鳴る。ヨシコだと思っていたら、違った。いつも来てくれる宅配便とは違う会社の配達の人だった。 『こちらに印鑑かサインをお願いします』 えーと、ハンコ…ともたついていると、ポケットからボールペンを差し出してくれた。 『すみません…
マサヨさんがお店のエプロンに、カーディガンを羽織った姿で入ってくる。マサヨさんと一緒に入ってくる風も、夜になると冷たい。秋だな、と思う瞬間だ。 『栞ちゃん、お待たせ。遅い時間に悪いわね』 『そんな、わざわざ持ってきてくれて、ありがとう』 ボー…
皆様、ごきげんよう。ティピカです。だんだんと秋らしくなってきました。明け方などは寒さを感じることもあります。そんなときはジュンコの『少し』ぽっこりしてきたお腹の上で寝ることにしています。若い頃はぺたんこのお腹だった、と相棒の名誉のために申…
この店のオーナーのマリコさんが『喫茶店でコーヒーを飲みながら、万年筆で手紙を書く人口を増やしたい』と言ったことがきっかけで、うちでも店の奥にライティングデスクを置き、オリジナルのレターセットやインクを販売している。俺も若い頃に買い集めた万…
最近、ミユキさんが夜の伝票整理を手伝ってくれることが多かったから、ついそのペースでいたら、遅くなってしまったわ。きょうは八百屋さんのお父さんがいつもに増してご機嫌で、立派な巨峰を持ってきてくれた。競馬で勝ったんだって。 『栞ちゃん、この幸せ…
皆様、ごきげんよう。ティピカです。時計は夜の8時をとっくに過ぎています。この店はオフィス街にある、というわけではないので仕事の後にコーヒーでも、というお客様はまずいらっしゃいません。まわりくどい言い方をしてしまいましたが、暇なのです。 そん…
ひと月に1回、俳句の雑誌を買うついでに立ち寄ってくれるお客さんがいる。俳句の世界ではもう秋だという。そして、アイスココアを飲みながら秋の句を捻ろうとしている。 『いや、こう暑いと秋の句もそう簡単には浮かばないものだね』 『長年、俳句に親しま…
花火の音と、歓声が聞こえてくる。店の中にはミユキさんと私の2人だけ。この場所は花火大会をしている公園からは何とも距離感が中途半端なのだ。だから、背伸びをするといつもトモノリさんが座る席の窓から、ようやく花火の『ごく一部』が見えるかどうか、…
皆様、ごきげんよう。ティピカです。夏休みのこの時期になると私たちのところにも『はじめまして』のお客様がいらっしゃいます。ジュンコの淹れるコーヒーがお口に合えば、また来てくださる方も。老いてもそこは喫茶店の猫、1度お会いしたお客様のお顔は絶…
引き戸がガラガラと開いて、ヨシコが入ってくる。手には近所の電器店のエアコンの広告が載った団扇とコンビニのレジ袋を持っている。夏には、この入口に風鈴でも下げたら涼しげだろうと思うのだが、ヨシコの開け方で吹っ飛ばされるのではないかと、ずっと躊…
ミユキさんは朝が弱い。忙しくなるのはランチタイムの少し前からだから、それに合わせてくれるだけでも十分に助かるのだけど、最近は製菓学校のお仕事が休みの日には朝の仕込みまで手伝ってくれる。それにしても、きょうはいつもに増して眠たそうだ。 『ミユ…
皆様、ごきげんよう。ティピカです。ドアベルの音と一緒に、常連さんのルリコさんが顔を覗かせました。手に団扇を持っています。きょうは自転車ではないのですね。 『いらっしゃいませ。あら、素敵な団扇』 『流石、ジュンコさん。気づいてくれて嬉しいわ。…
風が気持ちよかったから、開店時間までは引き戸を開けっ放しにしておこう。こんなときにはつい、鼻歌のひとつも歌いたくなる。 『おっはよぉー! サトルちゃん、ホット』 ヨシコの『おはよう』にも妙なメロディーが感じられる。ヨシコも俺も歌は上手くないけ…
カラン、コロンとドアベルが鳴って入って来た顔を見て少し驚いた。 『タケオさん、おはようございます。こんな時間にめずらしいですね』 声を聞いて、さらに驚く。 『おはようございます。栞ちゃん、お手数かけて悪いけど、フレンチトーストとカプチーノをく…
皆様、ごきげんよう。ティピカです。ジュンコが作った『黒豆のタルト』をどなたかが宣伝してくださったらしく、この小さな店がめずらしく混み合っているようです。 ジュンコは店が忙しくなると時々、うっかりと私のしっぽを踏むことがあります。見たところ、…
最近、朝一番のお客さんはタツオの伯父さんであることが多い。 『店長も、飲んでくださいよ』 と、言ってくださるので2人でコーヒーを飲みながら語り合うようになった。 伯父さんは普段のペースを変えさせたくないという理由で、この町に来ていることをタツ…
ミユキさんの予想どおりに、マリコさんは九州からさつまいもを大量に買ってきた。そのおかげでこのところ、私の食卓には毎日ふかし芋が登場している。私、お菓子以外にさつまいもを使うお料理って知らなかったんだわ。 八百屋さんのお父さんに聞いてみた。 …
皆様、ごきげんよう。ティピカです。常連さんのイネコさんが『ケータイ』を片手にクロワッサンを食べながら、ジュンコにぼやいています。 『ねえ、ママ。動画にいただいたコメントにお返事しようとしてるんだけど、送信できないのよ。わかる?』 ジュンコは…