ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

ティピカちゃんねる 13

皆様、ごきげんよう。ティピカです。ジュンコが作った『黒豆のタルト』をどなたかが宣伝してくださったらしく、この小さな店がめずらしく混み合っているようです。 ジュンコは店が忙しくなると時々、うっかりと私のしっぽを踏むことがあります。見たところ、特に猫好きのお客様もいらっしゃらないようなので、常連さんのルリコさんが来るまでミケコちゃんのところに遊びに行くことにしましょう。 そばの花が咲いていますね。可愛らしいです。その後『オトーチャン』のそば打ちは上達したのでしょうか。そんなことを考えながら、ミケコちゃんの家の方に歩いて行きます。時々、お客様とお会いします。 『あら、ティピカちゃん、お散歩?』 『ニャー』まさか、ジュンコにしっぽを踏まれないように避難してきた、とは言えませんものね。 ミケコちゃんの家は我が家の2倍はある広さです。専用のウッドデッキもあります。日中はそこにいることが多いです。いました、いました。ミケコちゃんのまわりには小さな猫たちが集まっていました。 『あら、ティピカ、いらっしゃい。ほら、みんなおじさんにご挨拶なさい』 猫たちが、それぞれに『こんにちは』を言います。 『やあ、みんな、こんにちは。おじゃましますよ』 ミケコちゃんは面倒見のよい性質で、事情があって親や人間と暮らせない子たちに自分のごはんをわけてあげたり、猫社会のルールを教えたりしています。そのおかげで、子猫たちはこの町で安全に暮らせています。 『お店、忙しいのね?』 すっかりお見通しですね。長年の付き合いなので、私がこの時間帯に来るということは『そういうこと』だとわかっているのです。 縞模様の子猫が私に近づいてきて話しかけます。 『ねえ、おじさん。おじさんはミケコおばさんの彼氏ですか?』 おやおや、おませさんですね。ミケコちゃんは『やれやれ』という表情をして、しっぽをトントンとさせました。そして 『時々ね、ユキの子どもたちもこの子たちの相手をしてくれるの。助かってるわ』 と言いました。 そのユキくんだって、ミケコちゃんが何かと面倒を見て、今があるのですよね。まったく、頭がさがりますよ。 子猫が私のしっぽにしがみついてきました。しばらく、そのまま遊ばせておきます。しっぽだって、ジュンコに踏まれるよりも子猫の相手をしている方がいいでしょう。ミケコちゃんは目を細めてその様子を見ています。これは『彼氏』と間違われても仕方がないですね。 この前、店に来た若いお嬢さんたちが『男女に友情は成立するのか』など語り合っていましたが、私は『成立する』と思っていますよ。ね、ミケコちゃん。ミケコちゃんの『パパ』がおやつを持って来てくれました。鰻を食べやすいように細かくほぐしたものです。ジュンコも毎年、この時期になると鰻を買ってきます。美味、美味。 おやつを食べてお腹がいっぱいになった子猫たちが、ずらりと並んで昼寝を始めました。町のあちこちから集まった子たち。いちばん端の子はお尻に黒豆のような模様があります。黒豆と言えば、タルト。店はそろそろ落ち着いた頃でしょうか。美味しいおやつもいただいて、午後からの仕事も頑張りましょう。 店の方へ歩いていると、後ろからルリコさんが歩いて来ました。 『ティピカ、これからお店?』 『ニャー』 『おそばの花、きれいよね。新蕎麦、楽しみだわ』 『ニャー』 店に着くと、シンクにはお皿がたくさん積んでありました。これは、猫の手には負えませんよね。ジュンコ、後で肩揉んであげるね。ルリコさんが言います。 『キティーから聞いたんだけど、黒豆のタルトがとても美味しいって』 ひとつだけ、残っていました。よかったです。 コーヒーを片手にルリコさんが 『黒豆には老化防止の効果があるのよね』 と言っています。さっき、ミケコちゃんが子猫たちと追いかけっこをした後で『私も、この子たちにはかなわないわ』と言っていました。今度、ミケコちゃんにも黒豆を持っていってあげましょうか。ひとのことは言えません。追いかけっこの後の疲れは私も一緒です。私も黒豆をいただいた方がよいかもしれません。その前に、私はちょっとだけ寝ることにしましょう。