最近、一部の猫ちゃん好きの間で『ニャンコめぐり』と称して、猫ちゃんの編みぐるみでおなじみのタケオ先生の自宅マンションの前で写真を撮り、さらにその足でマサヨさんの文房具屋さんに向かい『営業部長』のフクスケくんと戯れた後に、この猫ちゃんグッズだらけの店でお茶をする、という動きがあるのだという。その話は義姉から聞いた。ご近所の奥さんがその火付け役らしく『私もお土産に栞ちゃんのところのクッキーもらったのよ』と、笑っていた。世間って狭いわね。
言われてみると確かに、マサヨさんのお店の紙袋を提げてくるお客さんが増えたみたい。トモヨさんが描いたフクスケくんのイラストが可愛いのよね。奥の席に座っている3人の女性たちも、マサヨさんのところから来たようで、携帯で撮影したフクスケくんの画像を見せ合っている様子だ。
『ほら、このかぎしっぽ。上手く撮れたでしょ?』
『私のは、フクちゃんの顔のどアップよ』
『この伸びをしているのも、いいのよー』
フクスケくんは感心するほど、人見知りをしない。兄のところの猫ちゃんは私に慣れるまで、相当かかったわ。高級煮干しを何度お持ちしたことかしら。女性の1人と、目が合う。
『ブレンドのおかわりをください』
ボンボニエールの中から猫ちゃんの形のキャンディーを3つ、猫ちゃんの手の形のお皿に載せて、コーヒーと一緒にお届けする。『ニャンコめぐり』の記念にどうぞ。
女性たちは『食べるの、勿体なーい』と言いながら、携帯で写している。
さあ、伝票の整理の時間だわ。自分用にハワイコナを淹れる。日中は少しずつ、アイスコーヒーのお客さんが増えてきたわね。朝晩は、まだ肌寒いけど。電話が鳴る。マサヨさんだ。お隣のお菓子屋さんのおじさんが苺大福をくれたから一緒に食べよう、というありがたいお話。苺大福は私にとって、春のお楽しみのひとつだ。
『きょうは、フクちゃんも大忙しだったわ。残業手当に鰆をあげたら、喉を鳴らしていたわよ。人間だったらお銚子の1本もつけるんだけどね』
マサヨさんは苺大福を囓りながら言う。
『この頃、フクちゃんに会いに来てくれるお客さんが増えてきたから、アルバイトさんに来てもらおうかと思っているの』
義姉から聞いた『ニャンコめぐり』の話をしてみた。
『あー、それでタケオ先生の名前が出ていたんだわ。最近、女性数人で連れ立ってくるお客さん、多いのよ』
『コーヒー、おかわりどう?』
『あ、嬉しい。このブレンドって、あんこにもよく合うのね』
『でしょ?』
私もあちこちの苺大福を食べているけど、おじさんのは一段と美味しい。昔気質のおじさんは最初は『苺とお大福』という組み合わせに難色を示していたそうだが、茶道部の女子高生たちのリクエストにこたえてお店に並べることを決めたらしい。
『おじさんったら、前に私が苺大福食べたい、って言ったときには知らん顔してたのにね』
と、マサヨさんは肩をすくめた。