ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

ティピカちゃんねる 26

皆様、ごきげんよう。ティピカです。先日、催事の準備にこの町に来た百貨店バイヤーの『ちょい悪おやじ殿』は、このところ毎週のようにコーヒーを飲みに来ます。 お仕事のついでとは言え、車でだってかなり時間がかかるところをありがとうございます。無愛想…

サトルさんとモンブラン 22

玉子サンドのつけ合わせのピクルスを囓りながら、ヨシコが言う。 『きのうね、中学の同窓会があるって葉書が来たのよ。6年ぶりだって』 『出席するのか?』 『うーん、幹事さんには悪いけど、店があるし』 『そうか』 ヨシコは『制服がかわいい』というだけ…

栞さんのボンボニエール 30

電話が鳴る。文房具屋さんのマサヨさんだ。息子さんのお夜食の玉子サンドを予約したい、との事だ。了解。マサヨさんが予約の電話をくれるのは、お店がとっても忙しいときだ。無理もない。この時期は普段のお客さんに加えて、新入学の準備をするお客さんたち…

ティピカちゃんねる 25

皆様、ごきげんよう。ティピカです。常連さんのルリコさんが店に入ってきて誰かを探すように視線をさまよわせています。 『ニャー』ルリコさん、どうしましたか? 『そのうちわかるわよ。ティピカ』 そう言って、いつもの席に座ります。 『ジュンコさん、注…

サトルさんとモンブラン 21

女性というのは、いくつになっても『カワイイ』ものが好きなのだろうか。この店のオーナーのマリコさんに『知人の陶芸作品を店に展示して欲しい』と言われて、1週間ほど試みた。まるで絵本に登場しそうなお城の住人が使うのか、というぐらい繊細で砂糖菓子…

栞さんのボンボニエール 29

きのう久しぶりに、この店のオーナーのマリコさんから電話がかかってきた。とても素敵なカップを見つけたから、是非、店でも使って欲しい、という事だった。カラン、コロンとドアベルが鳴って、猫ちゃんマークの帽子を被った宅配便のスタッフさんが荷物を届…

ティピカちゃんねる 24

皆様、ごきげんよう。ティピカです。きょうは『はじめまして』のお客様がいらしています。洒落たスーツを着て、胸ポケットにはジュンコが時々、手紙を書くときに使う『万年筆』というものを挿しています。随分と前にお客様たちのお喋りの中に登場していた『…

サトルさんとモンブラン 20

もうすぐバレンタインデーだ。この歳になると『チョコをもらえるかどうか』なんて心配とは無縁になっていて、何ともお気楽な境地だ。カラカラと引き戸が鳴って、パリッとしたスーツ姿のトオルがニヤニヤして手を振る。 『よお、サトル』 『あ? なんで、おま…

栞さんのボンボニエール 28

トモノリさんが経済新聞を読みながら、難しい顔をしている。コーヒーのおかわりはもう少し待っていた方がよさそうだ。ここで新聞を読むなんて、めずらしい。たいていはこの店が定期購読している猫ちゃんの雑誌を眺めて目尻を下げていることが多いのに。こう…

ティピカちゃんねる 23

皆様、ごきげんよう。ティピカです。寒さが一段と厳しくなってきました。どうぞ、くれぐれもご自愛くださいませ。降り積もる雪に歓声をあげているのは、雪遊びが大好きな子どもたちだけなのでしょうか。私のようなおじさん猫は寒さが増すような気がするので…

サトルさんとモンブラン 19

カラカラと引き戸が鳴る。 いつもの郵便配達の青年が1通の手紙を差し出しながら 『店長、後でまた寄りますからモンブラン、俺のぶんも取っておいてくださいね』 と言う。差出人はこの店のオーナー、マリコさんだった。 相変わらず、達筆だな。知り合いに陶…

栞さんのボンボニエール 27

そろそろお仕事の後のお客さんたちが来てくれる時間帯だ。ここで待ち合わせて、コーヒーを1杯飲んでから晩ごはんを食べに行く人たち、この店のサンドイッチが夕食だという少食な人たち、などなど。 カラン、コロンとドアベルが鳴ってトモノリさんの姿が。続…

ティピカちゃんねる 22

皆様、ごきげんよう。ティピカです。常連さんのイネコさんがメニューを眺めて 『きょうはブルーマウンテンにしようかな』 と言いました。 ブルーマウンテンはジュンコと私の『オトーチャン』の好きな豆でもあるので、名前を聞いただけでも楽しい気持ちがわい…

サトルさんとモンブラン 18

世間さまはもう、休暇になっている。幼稚園だって、冬休みだ。普段うちに来てくれるようなママさんたちやカルチャーセンターの生徒さんたちはこんなときにコーヒーを飲みに来たりはしない。だけど、何となく店を開けている。息子が幼い頃は『お父さんのお仕…

栞さんのボンボニエール 26

いつも朝にコーヒーを飲みに来てくれている八百屋さんのお父さんが 『きょうは冬至だろ? うちのかぼちゃのいとこ煮、よかったら食べてみてよ』 と、タッパーに入れて届けてくれた。八百屋さんのお母さん、お料理上手なのよね。開けてみると、かぼちゃの皮に…

ティピカちゃんねる 21

皆様、ごきげんよう。ティピカです。店の中には常連さんのルリコさんだけ。そんなときはジュンコもカウンターの中の椅子に座ってコーヒーを飲みながら、ルリコさんとお喋りをすることになっています。 カラン、コロンとドアベルが鳴って冷たい風と一緒に、着…

サトルさんとモンブラン 17

カラカラと引き戸が鳴って、顔を覗かせたのはショウジさんだ。毎月、近所の本屋で俳句の雑誌を買うついでに立ち寄ってくれている。 『いらっしゃいませ。新聞、見ましたよ』 ショウジさんの俳句はときどき新聞にも、載る。 『ありがとうございます。モンブラ…

栞さんのボンボニエール 25

先週からランチタイムの後、夕方まで甘酒を出していて、それが意外と好評をいただいている。カラン、コロンとドアベルが鳴る。ふんわりとマフラーを巻いたタケオさんがマサヨさんのためにドアを押さえている。レディーファースト、さすが『王子』と言われて…

ティピカちゃんねる 20

皆様、ごきげんよう。ティピカです。雪がちらつくこの頃ですが、どうかお風邪などひきませんよう、お気をつけくださいませ。寒い日には鍋料理なんかもいいですね。おや、ティピカは猫舌じゃないの? 猫は熱いものは食べないでしょ? という声が聞こえてきそ…

サトルさんとモンブラン 16

夏にこの町に遊びに来て以来、タツオの伯父さんは俺のコーヒー豆を注文してくれるようになった。横浜にはうちよりも美味しい喫茶店はたくさんあるだろうに、ほぼ毎月のように電話で注文してくれる。そのときに近況を報告し合ったり、色々な土地の特産品の話…

栞さんのボンボニエール 24

最近よく、夕方になるとマサヨさんが息子さんのお夜食を買いに来る。 『あの子ったら、母さんのおにぎりより栞さんのサンドイッチが食べたい、なんて言うんだから』 『お母さんに喫茶店で休憩どうぞ、っていうことでしょ?』 『そうかしら? だったら素直に…

ティピカちゃんねる 19

皆様、ごきげんよう。ティピカです。常連さんのイネコさんがナマケモノの絵が描かれたトートバッグからお菓子の袋を取り出して、ジュンコに手渡しています。 『ママ、こういうのって、食べる?』 『まあ、きなこねじり? 懐かしいわね』 『そう? 私、しょっ…

サトルさんとモンブラン 15

ヨシコが大きく伸びをした。それを見て、マドカちゃんが笑って言う。 『ヨシコさんの伸び、うちのクリタロウとそっくり』 『そう?』 『ほら』 と、マドカちゃんが携帯の中の『愛猫クリタロウ』の写真を見せている。ヨシコはよく伸びをする。『肩に力が入っ…

栞さんのボンボニエール 23

タケオさんがカウンターの上の編みぐるみの猫ちゃんを手のひらに載せて、ぼんやりと眺めている。その横顔をトモノリさんが不思議そうに眺めている。 『トモノリさん、お待たせしました。きょうのランチです』 『ありがとう、栞ちゃん。きのこごはん、美味し…

ティピカちゃんねる 18

皆様、ごきげんよう。ティピカです。おひさまがお顔を見せてくださっていても、頬に触れる風は冷たく感じるこの頃ですね。きょうも『女子高生だったのは相当前』のジュンコとルリコさんがマドレーヌをお茶請けにコーヒーを飲みながら、お喋りをしています。…

サトルさんとモンブラン 14

ガラガラと引き戸が鳴る。ヨシコだと思っていたら、違った。いつも来てくれる宅配便とは違う会社の配達の人だった。 『こちらに印鑑かサインをお願いします』 えーと、ハンコ…ともたついていると、ポケットからボールペンを差し出してくれた。 『すみません…

栞さんのボンボニエール 22

マサヨさんがお店のエプロンに、カーディガンを羽織った姿で入ってくる。マサヨさんと一緒に入ってくる風も、夜になると冷たい。秋だな、と思う瞬間だ。 『栞ちゃん、お待たせ。遅い時間に悪いわね』 『そんな、わざわざ持ってきてくれて、ありがとう』 ボー…

ティピカちゃんねる 17

皆様、ごきげんよう。ティピカです。だんだんと秋らしくなってきました。明け方などは寒さを感じることもあります。そんなときはジュンコの『少し』ぽっこりしてきたお腹の上で寝ることにしています。若い頃はぺたんこのお腹だった、と相棒の名誉のために申…

サトルさんとモンブラン 13

この店のオーナーのマリコさんが『喫茶店でコーヒーを飲みながら、万年筆で手紙を書く人口を増やしたい』と言ったことがきっかけで、うちでも店の奥にライティングデスクを置き、オリジナルのレターセットやインクを販売している。俺も若い頃に買い集めた万…

栞さんのボンボニエール 21

最近、ミユキさんが夜の伝票整理を手伝ってくれることが多かったから、ついそのペースでいたら、遅くなってしまったわ。きょうは八百屋さんのお父さんがいつもに増してご機嫌で、立派な巨峰を持ってきてくれた。競馬で勝ったんだって。 『栞ちゃん、この幸せ…