先週からランチタイムの後、夕方まで甘酒を出していて、それが意外と好評をいただいている。カラン、コロンとドアベルが鳴る。ふんわりとマフラーを巻いたタケオさんがマサヨさんのためにドアを押さえている。レディーファースト、さすが『王子』と言われている人だわ。
『いらっしゃいませ。めずらしいコンビね』
『栞ちゃん、甘酒、まだある?』
『あるわよ』
『ああ、よかった。ね、先生』
マサヨさんはタケオさんの方に振り向いて言う。
『間に合いましたね』
と、タケオさんも微笑む。最近はマサヨさんの息子さんが文房具屋さんのお仕事に積極的で、学校の後すぐに店に立つようになっている。
タケオさんはこのところ、童話作家さんとの企画のための猫ちゃんの編みぐるみ作りにかかっていた。文房具屋さんの『営業部長』である、かぎしっぽのフクスケくんをモデルにしようと、ほぼ毎日お店にスケッチに通っている。そこで、休憩時間になるマサヨさんと一緒に来てくれたという話だった。
『寒くなると、甘酒おいしいものね。自分で作るのも、なかなか大変だし』
『そうなんですよ。僕も仕事が立て込んでいないときは作ることもあるんですけどね』
『先生はマメだから』
タケオさんはお仕事柄、手にはとても気をつけているという。ハンドクリームも必需品だけど、中からの対策として甘酒もよく飲んでいるそうだ。アイドルのような外見は甘酒の効果でもあるのかもね。
『生姜、どうする?』
『もらおうかな』
摺りおろした生姜を、猫ちゃんの顔の形の豆皿にのせてお寿司屋さんのような大きい湯のみ茶碗の甘酒に添える。マサヨさんは1度に全部使って、咳き込む。タケオさんは最初は半分だけ使って後から追加していた。性格が出るわね。
『そうだ、マサヨさん。さっきショーケースの中にあった万年筆、ちょうどこね甘酒みたいな色の軸の。あのペン先って、太さはどうですか?』
『あ、先生、気づいてくれて嬉しいわ。あれね、うちのオリジナルなの。店にあるのはFだけど待っていただけたら、どの太さのものも作れるわよ』
『そうですか。僕はMがいいです』
『今度いらした時に試し書きしてみて。うちのはFでも柔らかめだから、Mのような書き味もあるて思うの』
『ありがとうございます』
甘酒みたいな色の万年筆、雪景色にも合いそうね。奥のテーブル席で雑誌を捲っているお客さんが咳き込んでいる。お水を注ぎに行こうか。ボンボニエールから『はちみつのど飴』を2粒取り出して、そっとテーブルの上に。コーヒーの友にはどうかと思うけれど。
甘酒が美味しい冬だけど、寒さには気をつけないと。寒さ対策は猫ちゃんに学ぶとよさそうだわ。カウンターの上にいつも並んでいるタケオさん作の猫ちゃんの編みぐるみを見ながら、そう思う。