先週から、ランチメニューのボードの横にマサヨさんの文房具屋さんの求人広告を貼っている。たまたまコーヒーを飲みに来ていたトモヨさんがマサヨさんに話を聞いて、この場でさらさらと2枚書き上げたものだ。その2枚は、マサヨさんのお店とこの店に1枚ずつ貼ることにした。フクスケくんの似顔絵と飾り文字が素敵で、ちょっとしたポスターみたい。マサヨさんは『私がサインペンで走り書きしたものとは大違いだわ』と感心していた。
ランチタイムに来たトモノリさんも
『これ、もしかしてトモヨが書いた?』
と、目を留める。
『そうよ。3分もかからないで書いてくれたの。さすが、プロよね』
『で、反応はどう? フクスケくんと一緒にいられるなら、僕が応募したいぐらいだよ』
と、冗談とも本気ともつかない調子で言っている。
『今のところ、3人ぐらいからお声がかかったわ。だけどね、時間帯が合わなかったり、そもそも文房具に関心がなかったり、難しいものね』
カラン、コロンとドアベルが鳴る。マサヨさんだ。お店のエプロンにサンダルという、いつもの格好だ。
『あら、トモノリさんも来てたのね。栞ちゃん、ご協力、感謝。おかげさまでね、アルバイトさん決まったわ』
『あら、私、何もしてないわよ』
『何言ってるのよ。広告、貼らせてくれたじゃないの』
そう言って、マサヨさんはトモノリさんの隣に座る。
『どんな人が来るの?』
フクスケくん目当てで文房具屋さんに通っているトモノリさんも興味があるみたい。
『短大の学生さんなの。可愛いお嬢さんよ。絵を描くのが好きなんだって』
マサヨさんの話によると、このお嬢さんはフクスケくんが採用したということだ。お店の求人広告を見て、フクスケくんファン30人程からの応募があったらしい。ありがたい話ではあるけれど、やっぱり文房具にもある程度は関心のある人に来てもらいたい。まず、書類選考で5人に。それから面接に来てもらった。そこでフクスケくんが1番懐いた人に決めたという。
『フクちゃんって、全然人見知りしない子なんだけどね。そのお嬢さんのことは特に好きみたいで、ぴったりくっついていたわ』
『フクスケくんにモテモテなんて、羨ましいにゃー。ラッキーガールだね』
と、トモノリさんが言う。最近、新入社員のフォローがいそがしくて、文房具屋さんでゆっくりする時間が取れていなかったものね。労う気持ちでボンボニエールから、チョコを2人に。
『ありがとう。栞さん、コーヒーのおかわりもらおうかな』
コーヒーのおかわりを飲みながら、トモノリさんがぽつりと
『僕が言うのもおかしいけど、フクスケくんが目当てで応募してきた人が多いんだね』
と言う。マサヨさんも
『お断りするの、心苦しかったわ。まさか、こんなに応募していただくなんてね』
と少し、しんみりとする。感謝の想いを込めて、応募してきた方全員にフクスケくんの似顔絵柄の日本手ぬぐいをプレゼントしたそうだ。
『トモノリさんのぶんも、あるからね』
とマサヨさんがにやりとする。トモノリさんはそれ以上ににやり、にやりとして
『えー? 僕、応募してないのにー?』
と言う。
『うちの大事なお客様じゃありませんか、旦那』
トモノリさんの喉がゴロゴロと鳴って…いるわけないわよね? 猫ちゃんじゃないんだから。