ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

ティピカちゃんねる 16

皆様、ごきげんよう。ティピカです。時計は夜の8時をとっくに過ぎています。この店はオフィス街にある、というわけではないので仕事の後にコーヒーでも、というお客様はまずいらっしゃいません。まわりくどい言い方をしてしまいましたが、暇なのです。 そんな時、ジュンコは自分用にコーヒーを淹れて、本など読むことにしています。きょうはトラジャですか。私は猫じゃ。なんちゃって。 『はいはい。わかったわよ、ティッティ。僕は虎じゃない、猫じゃ。とでも言いたいんでしょ?』 あ、聞こえましたか。オジサンの駄洒落好きは人間も猫も同じなのですよ。 ジュンコはトラジャを飲みながら、落語の本を開きました。時々、クスッと笑います。どの場面で笑ったのか気になりますね。よいしょっと膝にのって本を覗いてみましょう。なるほど『目黒のさんま』ですか。殿様が焼きたてのさんまを召し上がるところでのどが鳴ります。ゴロゴロ。 『なぁに? お腹空いた? おやつあげるわね』 と、煮干しをくれました。いや、お腹はそれほど空いていなかったのですけど、せっかくなのでいただきましょう。 私に煮干しを与えると、ジュンコはまた本を読み続けます。今度は声に出して『ふふふ』と笑っています。そして、トラジャをひとくち。さんまの骨を丁寧に除けて…おや? どこかで見たような。これは、まさにジュンコがいつも私にくれるさんまのようではありませんか! 猫なので『焼きたて熱々』は必要ありませんがせめて『わた』の部分ぐらいは残しておいてほしいですね。私が食べているのは殿様のさんまだったのですね。 『ニャアー』 『なぁに? 煮干しより、さんまが食べたいの? もうちょっと待っててね』 いや、そうではなくて。僕のさんまも殿様が召し上がるようなのではなく、目黒のさんまをただ冷ましただけのようなのがいいよ、と言っているんだよ。駄洒落は通じたのですが、いくら付き合いが長いとはいえ、人間に猫の言葉を全部、理解しろというのは無理がありますね。それでも、ジュンコはまだ私の言葉をたくさん理解してくれている方ですよ。おやつの煮干しでお腹がいっぱいになったので、私はちょっとだけ寝ることにしましょう。