ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

ティピカちゃんねる 14

皆様、ごきげんよう。ティピカです。ドアベルの音と一緒に、常連さんのルリコさんが顔を覗かせました。手に団扇を持っています。きょうは自転車ではないのですね。 『いらっしゃいませ。あら、素敵な団扇』 『流石、ジュンコさん。気づいてくれて嬉しいわ。京都の職人さんにつくってもらったのよ』 『バラの模様かしら?』 『そうなの。和のものだから、どうかと思ったんだけど想像以上の仕上がりだったわ』 と、本物のバラの花束のようにうっとりと眺めています。 ジュンコがクーラーの温度を上げました。店なので、勘弁してあげましょう。自宅で同じことをしたら、文句のひとつも言うところなのですけど。 『ジュンコさんのぶんもあるのよ』 そう言って、ルリコさんは肩に提げてきたトートバッグから団扇を出しました。それには、わが友ミケコちゃんによく似た愛らしい猫の柄が散りばめられていました。ジュンコには『花よりにゃんこ』と言ったところでしょうか。それにしても、さすがは京都の職人さん。ジュンコのようにちょっとだけ『トウ』の立ったお嬢さんが持っていても、違和感がありません。 『ありがとう、ルリコさん。早速使わせていただくわ』 ジュンコは平安貴族が扇でしたように、ミケコちゃん柄の団扇で口元を隠しながら 『最高品質のハワイコナが、入荷しましたのよ』 と言った。ルリコさんもバラの団扇を同じように使いながら 『まあ、素敵。チーズケーキはございますこと?』 と、調子を合わせます。 『勿論、ございますわよ』 ルリコさんはチーズケーキをひとくち食べて 『このケーキもしかして、チーズ、変えた?』 と聞いています。 『そうなの。お蕎麦屋さんのおばさんのお知り合いがね、チーズ工房を始めたのよ』 『最近、小さなお店で質の高いものを作る人、増えてる気がするわ』 私はルリコさんの隣の椅子で、2人の話に耳を傾けていました。 ルリコさんがときどき団扇で柔らかい風を送ってくれます。クーラーの風よりも、心地がよいです。職人さんの風でしょうか。今夜はジュンコにミケコちゃん柄の団扇であおいでもらうことにしましょう。いくら親しいとは言っても、お客様のルリコさんに『もっと、右側をあおいでくれ』などとは言い難いですが、ジュンコなら遠慮する必要はありませんものね。ジュンコがチーズ工房の 住所を書いたメモを渡しています。ルリコさんは 『自転車でちょうどいい運動になるわね』 と言っています。きょうは運動不足ですが、外の気温がもう少し落ち着くまで、私はちょっとだけ寝ることにしましょう。