ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

ティピカちゃんねる 19

皆様、ごきげんよう。ティピカです。常連さんのイネコさんがナマケモノの絵が描かれたトートバッグからお菓子の袋を取り出して、ジュンコに手渡しています。 『ママ、こういうのって、食べる?』 『まあ、きなこねじり? 懐かしいわね』 『そう? 私、しょっちゅう食べるわよ。好物なの。おばあちゃんがたくさん送ってくれたから、ママにも、と思って』 『え、おばあちゃんってルリコさん?』 『あ、違うの。ララさんじゃなくて、母方のおばあちゃん。ララさんって、こういう素朴なお菓子、食べないんじゃないかな』 おや、イネコさんはご存知ないかもしれませんが、ルリコさんは温泉まんじゅうなんかもお好きなんですよ。まあ、確かに家にたくさんのバラを飾って、いつもフランス語の原書を読んでいる様子からは想像し難いかもしれませんね。 『私ね、きなこねじりをカフェオレのおともにするのが好きなの。父は嫌がるから、ほうじ茶にしてあげるんだけどね』 家族でも、好みはそれぞれですからね。私はジュンコがシナモンの入ったお菓子を食べたときには歯を磨くまで、絶対になでなでさせてあげないことにしています。イネコさんは、自分用にも持って来たきなこねじりを懐紙に載せて、カフェオレを飲みながら、タブレットを眺めています。 覗いてみると、筋トレの動画でした。スクワットの動きに合わせて頷いているようです。画面の中の女性が休憩すると、イネコさんも頷くのを休んで、きなこねじりに手を伸ばします。そして、カフェオレをひとくち。そして、また頷き始めました。一緒にトレーニングをしているつもりなのでしょうね。筋トレの次はボクササイズの動画ですか。着ぐるみを着て動画を撮影するほどの『ナマケモノ好き』で、普段もゆるやかに暮らしているイネコさんですが、見ている動画はずいぶんとアクティブなのですね。 仲良しの宅配便のお兄さんが、お昼ご飯を食べにきました。肩に黄色くなった銀杏の葉っぱがのっていましたので、そっと肩に前足をのせてお知らせしました。 『ああ、さっき銀杏の側を通ったときについたのかもしれないな。ティピカ、ありがとうな』 いえいえ、どういたしまして。忙しいお兄さんはいつも、簡単なお昼ご飯になってしまいますね。カルシウムも摂ってくださいね。私の煮干しをわけてあげたいです。 カラン、コロンとドアベルが鳴ってルリコさんの姿が。あたたかそうなイヤーマフをつけています。バッグも私のベッドのような素材です。『あの中に潜り込んだら、さぞや…』と想像すると喉が鳴りますね。 『ティピカ、ずいぶんご機嫌なのね』 私の腹の中を知らないルリコさんは、そう言って私の頭を撫でました。 『はい、ジュンコさんにおみやげ』 『ありがとう。開けていい?』 ジュンコが袋を開けると中には、きなこねじりが。朝、イネコさんがくれたのとは違うお店のものですね。ジュンコが目を丸くしています。 『これね、北海道のきなこと、黒糖を使っているの。私はお茶じゃなくて、コーヒーと一緒に頂くのがお気に入りでね。この辺では売ってないから、メーカーから取り寄せるのよ』 お互いに干渉し合わないように、とこの店に来る時間帯もずらしているルリコさんとイネコさんですが、やっぱり『おばあちゃんと孫』なんですよね。偶然にも、同じ日に同じお菓子を持ってきてくれるとは。しかも、その楽しみ方まで似ていますよ。何だか微笑ましいです。きなこねじり、私はこのほのぼのとした匂い、好きですね。ジュンコ、我が家でもコーヒーの友にしたら?  イネコさんのお好きなナマケモノ先輩は、1日の睡眠時間が20時間にもなるそうです。私たち猫も負けてはいられませんね。我が家のリビングにも、きなこねじりの匂いが漂うことを期待しながら、私はちょっとだけ寝ることにしましょう。