ティピカちゃんねる 18
皆様、ごきげんよう。ティピカです。おひさまがお顔を見せてくださっていても、頬に触れる風は冷たく感じるこの頃ですね。きょうも『女子高生だったのは相当前』のジュンコとルリコさんがマドレーヌをお茶請けにコーヒーを飲みながら、お喋りをしています。ジュンコは店の中にお客様がルリコさんだけの時は、自分もコーヒーを飲むことにしているのです。
『自分で撮った写真はどう?』
『ポラロイドより、大きい方がいいのよ』
『素敵なのに、勿体ないわね。私、いただいたこの子の写真、飾っているわよ』
そうなのです。ルリコさんは以前、ポラロイドカメラで私を写してくれたことがあります。と、いうよりも、油断した隙に撮られたといった方がしっくりします。それをジュンコは部屋に飾っています。2人は今、ルリコさんの家の壁に何を飾るとよいか、を話し合っているところなのです。
カフェ好きのルリコさんは、ご自分のリビングの一角にもカフェテーブルを置いて、曰く『おままごとカフェ』コーナーをつくっています。そこでコーヒーやお酒を楽しむ時に何か絵でも眺めたい、という気持ちになったそうで気の利いたものを探しているのだと言います。
『この前ね、画廊を覗いてみたのよ。でも、なかなかぴったりなものがみつからなくって』
『どんなのがいいの?』
『大学ノートぐらいのサイズがいいな、と思ってね。あとは風まかせね』
カラン、コロンとドアベルが鳴って顔を見せたのはアサミさん! 続いてリサさんも。
『あら、いらっしゃい。遠いところをようこそ』
ジュンコが立ち上がって言います。『アサミさーん、リサさーん。歓迎のすりすりをさせてくださいな』
『ママ、ティピカさん、ご無沙汰してまーす』
と、アサミさん。リサさんはにっこり微笑んで会釈をします。アサミさんはルリコさんにも
『こんにちは。おじゃまします』と、声を掛けています。
『こんにちは。はじめまして』
とルリコさんもお2人に笑いかけます。現役女子高生の登場で店の中の平均年齢が、グッと若くなりました。私の腹を見透かしたように、ジュンコがこちらをチラリと見て肩をすくめます。アサミさんは1つ空けて、ルリコさんの隣にリサさんと並んで座りました。
『お天気がよかったから、学校サボっちゃいました。プラムのケーキとコーヒーを2つずつください』
『そうよね、わかるわ。こんな気持ちのいいお天気の日に学校なんて、行ってられないわよね』と、ルリコさんも同意しています。私はリサさんのお膝の上へ。
『ママ、お話ししていた絵が仕上がったから見て欲しいな、と思って』
アサミさんは『ケイタイ』をジュンコに差し出します。ルリコさんと私も覗き込みます。
本を読むジュンコの横顔、そして隣には目を細める私が描かれています。普段の私たちそのものではありませんか。アサミさん、どうしてジュンコの本好きがわかったのでしょうか? 私たちはじっと絵に見入りました。アサミさんの絵からは、ジュンコが本を読みながら飲むコーヒーの匂いまで漂ってくるような気がしました。昔の女子高生2人は目を潤ませているようです。私も何だか優しい気持ちがこみ上げてきました。
ルリコさんと目が合います。風がとっても素敵な出会いを運んでくれたようですね。リサさんが私の背中をそっと撫でてくれています。アサミさんが戸惑ったように
『え、どうしよう? 似てなかったかなぁ?』
と言います。ジュンコは指で目元を押さえながら
『違うの。あまりにもよく描いてくれているから、嬉しくって』
と答えます。アサミさんはホッとしたようにリサさんの方を向いて、ケーキを美味しそうに食べ始めました。
ルリコさん『おままごとカフェ』の壁を飾る絵の作者は決まったようですね。アサミさんはきっと、快く引き受けてくれると思いますよ。ホッとしたので、私はちょっとだけ寝ることにしましょう。