そろそろお仕事の後のお客さんたちが来てくれる時間帯だ。ここで待ち合わせて、コーヒーを1杯飲んでから晩ごはんを食べに行く人たち、この店のサンドイッチが夕食だという少食な人たち、などなど。
カラン、コロンとドアベルが鳴ってトモノリさんの姿が。続いて、トモヨさん。2人一緒なのは久しぶりだわ。
『いらっしゃいませ。トモヨさん、お久しぶりです』
『こんばんは。おじゃまします』
並んでカウンターへ。
『栞さん、きょうの日替わりケーキは何?』
『抹茶のシフォンケーキよ』
『あ、いいね。あっさりしたもの食べたかったんだよ』
『お兄ちゃんって、ホント大食いよね。まだ食べるの?』
『食後のデザートだよ』
トモヨさんは呆れたように肩をすくめる。
『デザートって、お2人はもうお食事してきたの?』
『トモヨが会社の前で待ち伏せしていたんだよ。鰻が食べたいって』
『いいじゃないの。ボーナスもらったんでしょ? フリーランスにはボーナスないのよ』
トモヨさんはこの店とも関わりのあるイラストレーターさんだ。
『栞さん、抹茶のシフォンケーキ2つと、ウィンナコーヒーをください。お兄ちゃん、飲み物どうするの?』
『何だよ、自分も食べるんじゃないか。栞さん、俺にはブレンドください』
このあいだ届いたばかりの粉引の猫ちゃんの絵皿にケーキを載せる。トモヨさんは職業柄、すぐに絵に注目する。
『この猫、いい表情してますね。何か企んでいるみたい』
『さっきのおまえみたいだな』
と、トモノリさん。トモヨさんは猫ちゃんの絵の表情を真似てみせた。
コーヒーを飲みながら、伝票の整理を始める。ボンボニエールからホワイトチョコを2つ。トモノリさんとトモヨさんのやりとりを聞いたら、私も兄の声が聞きたくなった。時計に目を向ける、まだ電話してもいいわよね。姪が出る。ピアノを始めた兄が誕生日に自分の好きな曲を弾いてくれて、見直した、と言う。次に義姉が出て、暫くテレビドラマの話題で盛り上がる。義姉とさんざんお喋りした後、兄が眠そうな声で電話口に現れる。
『おう、どうした?』
『うん、何となく』
兄もコーヒーを飲んでいたところらしい。
『おまえさんのところのブレンド、送ってくれないか? やっぱり、あれが1番飲みやすい』
『了解』
営業時間外にも注文を取るなんて、私ってなんて仕事熱心なのかしら、なんてね。
コーヒーの好みが似ているとか、そんなことで改めて『兄妹なんだなー』と確認したような気持ちになる。寒いと少し、センチメンタルになるのかしら。窓の外では雪が降っている。あまり、積もらないでね、と心の中で雪に話しかける。