ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

栞さんのボンボニエール 27

そろそろお仕事の後のお客さんたちが来てくれる時間帯だ。ここで待ち合わせて、コーヒーを1杯飲んでから晩ごはんを食べに行く人たち、この店のサンドイッチが夕食だという少食な人たち、などなど。

 

カラン、コロンとドアベルが鳴ってトモノリさんの姿が。続いて、トモヨさん。2人一緒なのは久しぶりだわ。

『いらっしゃいませ。トモヨさん、お久しぶりです』

『こんばんは。おじゃまします』

並んでカウンターへ。

『栞さん、きょうの日替わりケーキは何?』

『抹茶のシフォンケーキよ』

『あ、いいね。あっさりしたもの食べたかったんだよ』

『お兄ちゃんって、ホント大食いよね。まだ食べるの?』

『食後のデザートだよ』

トモヨさんは呆れたように肩をすくめる。

 

『デザートって、お2人はもうお食事してきたの?』

『トモヨが会社の前で待ち伏せしていたんだよ。鰻が食べたいって』

『いいじゃないの。ボーナスもらったんでしょ? フリーランスにはボーナスないのよ』

トモヨさんはこの店とも関わりのあるイラストレーターさんだ。

『栞さん、抹茶のシフォンケーキ2つと、ウィンナコーヒーをください。お兄ちゃん、飲み物どうするの?』

『何だよ、自分も食べるんじゃないか。栞さん、俺にはブレンドください』

 

このあいだ届いたばかりの粉引の猫ちゃんの絵皿にケーキを載せる。トモヨさんは職業柄、すぐに絵に注目する。

『この猫、いい表情してますね。何か企んでいるみたい』

『さっきのおまえみたいだな』

と、トモノリさん。トモヨさんは猫ちゃんの絵の表情を真似てみせた。

 

 

コーヒーを飲みながら、伝票の整理を始める。ボンボニエールからホワイトチョコを2つ。トモノリさんとトモヨさんのやりとりを聞いたら、私も兄の声が聞きたくなった。時計に目を向ける、まだ電話してもいいわよね。姪が出る。ピアノを始めた兄が誕生日に自分の好きな曲を弾いてくれて、見直した、と言う。次に義姉が出て、暫くテレビドラマの話題で盛り上がる。義姉とさんざんお喋りした後、兄が眠そうな声で電話口に現れる。

 

『おう、どうした?』

『うん、何となく』

兄もコーヒーを飲んでいたところらしい。

『おまえさんのところのブレンド、送ってくれないか? やっぱり、あれが1番飲みやすい』

『了解』

営業時間外にも注文を取るなんて、私ってなんて仕事熱心なのかしら、なんてね。

コーヒーの好みが似ているとか、そんなことで改めて『兄妹なんだなー』と確認したような気持ちになる。寒いと少し、センチメンタルになるのかしら。窓の外では雪が降っている。あまり、積もらないでね、と心の中で雪に話しかける。