皆様、ごきげんよう。ティピカです。常連さんのイネコさんがメニューを眺めて
『きょうはブルーマウンテンにしようかな』
と言いました。
ブルーマウンテンはジュンコと私の『オトーチャン』の好きな豆でもあるので、名前を聞いただけでも楽しい気持ちがわいてきます。
『ララさんにお年玉もらったの。だから、ちょっと奮発しちゃうわ』
『あら、ネコちゃん、お年玉まだもらう側なのね』
イネコさんはにやりとして
『父にはもらわないわよ。さすがに』
と言っています。
ララさん、つまりルリコさんは『干渉し合わない』と言いつつも、孫のイネコさんがかわいいのでしょうね。ルリコさんがイネコさんにお年玉をあげる様子を想像すると、何だか微笑ましいですよ。きっと『たまには、こんなことするのも悪くないわよね』なんて言って渡すのではないでしょうか。
『ティピカさん、なんかにやにやしてない? あのララさんが孫にお年玉…とか思っちゃってる?』
おや、わかりましたか?
ジュンコがブルーマウンテンを静かに挽き始めました。そして金縁の白いカップをあたためます。このカップは『オトーチャン』が普段、家で愛用しているのと色違いで私も気に入っているものです。この店ではブルーマウンテンをお出しするときにはこのカップと決まっていました。
『わー、綺麗なカップね。奮発した甲斐があったわ』
良心的な価格設定のジュンコのところでも、イネコさんがよく飲むブレンドが3杯飲めるお値段を頂きますからね、カップもそれなりのものを、ということでしょうか。
いつもは携帯を片手に動画などを眺めてコーヒーを飲むイネコさんなのですが、めずらしく携帯には手を触れずにブルーマウンテンを味わっています。
『おいしい』
イネコさんはジュンコに笑いかけます。
『ありがとうございます』
と、ジュンコも頭を下げます。普段のこの2人にはない雰囲気です。
『ララさんのおかげでプチ贅沢できたわ』
イネコさんは伸びをして
『ママ、クロワッサンとカフェオレ追加しようかな』
と、つけ加えました。ブルーマウンテン効果は20分ほどで、あっさりといつも通りの雰囲気に。イネコさんはまた携帯を出して動画を見始めました。これも、またよし、といったところでしょうか。
プチ贅沢、お値段の問題ではなくて1杯のコーヒーをただ、じっくりと味わう。そのひとときが本当の贅沢なのかもしれないですねえ。そういう意味では私たち猫は人間よりもはるかに贅沢を楽しめているのかもしれませんね。お湯の沸いている音が耳に心地よいです。私はちょっとだけ寝ることにしましょう。