きょうは授業でクッキーを作った。
『たいせつな人にプレゼントしたい』をテーマにレシピを考えてこい、というのが課題だった。
俺が作ったのは、かぼちゃのぜんざいをイメージしたやわらかいクッキーだ。
ばあちゃん子の俺は、ずっと、和風のおやつで育ってきた。なので、このパティシエの専門学校に入ってからも、豆とか芋とかお茶といった材料を使ったお菓子を作ることが多い。
たいせつな人…もちろん、友達も彼女も家族もそうなんだけど、それは何だか当たり前過ぎる。そして、思いついたのがミユキ先生のお母さんのマリコさんだ。
ミユキ先生はうちの非常勤講師で、コーヒーの淹れ方を教えに来てくれている。先生の本業は喫茶店を経営している会社の副社長だ。
先生の会社は、22店舗の喫茶店をあちこちに持っていた。今、マリコさんが出ている店は、その中のひとつだ。俺は親しみを込めて『母さん』と呼んでいる。ミユキ先生の授業を受けたことのある皆は、たいていはこの店の常連になる。それで、俺は他のクラスや学年の人とも顔なじみになれた。
マリコ母さんは猫がポケットに入っているデザインのエプロンをして、俺たちのテーブルにコーヒーを運んできた。よほど近くで見ないと、絵だとわからない程、リアルな猫だ。
俺たちは少し、得意げに自分たちのクッキーを母さんの前に並べた。
『え、誰がどれを作ったか当ててみろ、ですって? そうね、この苺のブールドネージュはミサキちゃんかしら?』
『正解! じゃあ、これは?』
ミサキは鮭を背負った熊の形のクッキーを指さす。
キョウコが笑いを堪えている。母さんは俺の方をじっと見て
『ケイタじゃないことだけは、確かね』
と言った。そしてしばらく考えて
『エマちゃんでしょ?』
と答えた。エマはびっくりした顔で
『どうして、わかったの? ヒロキって言うかなぁ、と思ったのに』
と言う。母さんは続けて
『このかぼちゃのがケイタで、ヒロキはこのナッツがたくさんのやつね。そして、このアイシングがきれいなのが、キョウコちゃん。どうかしら?』
ヒロキがとぼけた顔で
『母さーん、ひとつぐらいはずしてくれないと、面白くないじゃんかよー』
と物申す。母さんは
『あら、ごめんなさい』
と肩をすくめる。
エマが
『全問正解の賞品に、このクッキー全部ママにプレゼントしまーす!』
俺たちのお歳暮の渡し方は、こんな感じだ。こういう役には、エマがぴったりだ。