ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

タケオさん 2

ミユキちゃんは僕のメロンショートケーキをじっと見て
『それも美味しそう。ピーチタルトと半分こずつしようよ』
と言った。

僕は子どもの頃、両親の仕事の都合でミユキちゃんの家や他の親戚の家で過ごす時間の方が多かった。なので、ミユキちゃんと1つの料理を分け合うのは、その頃からの習慣で自然なことだった。
『タケちゃんって、昔からメロン好きよね。ミドリおばちゃんの畑に一緒にメロンの種、植えたよね』
『あれ、近所の野良猫がぐちゃぐちゃに掘って荒らしたんだよ。それで、メロンの大収穫とはならなかったんだよね』
『そうそう。夏休みのおやつは毎日メロンにしよう、って計画してたのよね。あの時はちょっぴり猫を責めたくなったわ』
『でも、ミドリおばちゃんに宥められて、ね』
『おばちゃんの、まあまあ、っていう言葉には不思議な力があるわよね。聞いていると本当に、まあいいか、って思えてくるから』

ミユキちゃんはタルトの上の桃をフォークで口に運びながら、しみじみと言った。子どものいないミドリおばちゃんは、僕たちのことを我が子のようにたいせつにしてくれていた。僕たち、というよりは関わる人たち皆に対して、包み込むような気持ちがあるのかもしれない。

『うちのママも、おばあちゃんに言えないことでも、ミドリおばちゃんには話せたみたい』
『親子だから、余計に話せない、ということもあるかもね。だけど、僕はずっとマリコ母さんはミドリおばちゃんと似ているところがあるような気がしていたよ』
『猫好きなところが?』
『茶化すね、ミユキちゃんは。そうじゃなくてさ。人に対して、包み込む、とでも言うのかな』
『包み込む、か。確かにママも人づきあいは、いいわよね。マリコのマは、巻き込むのマだから』

ミユキちゃんは最近、マリコ母さんの新しい思いつきのためにあちこち駆けまわっていたから、そんなことを言っている。
『そうねえ、2人って、形は同じかも。ただ、ミドリおばちゃんを淡い桃色だとすると、ママがショッキングピンクみたいな』

ショッキングピンク、この例えに思わず笑ってしまう。マリコ母さんのバイタリティーを表現するのにはぴったりだ。さすが、娘。よく見ている。

ミユキちゃんが半分くれたタルトの桃をフォークで2つに割る。メロンに匹敵する瑞々しさだ。ふと、ミユキちゃんが好物の桃を食べ過ぎて、お腹を壊して幼稚園を休んだことを思い出す。だけど、それは黙っていよう。かわりに、こんな質問をする。
『この羊羹のお店がマリコ母さんのお店って、どういうこと? それに、マキさんって?』
『これはね、おはぎが取り持つ縁なのよ』
ミユキちゃんはガラスでできた耐熱カップに入ったコーヒーを置いて話し始めた。

マリコ母さんと若女将のようなマキさん、それに、おはぎ? 一体、どんな関係があるのだろうか。