ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

タケオさん 1

僕が紙袋を差し出すと、ミユキちゃんは目を丸くした。そして中のものを見ると大笑いし始めた。
『ミユキちゃん、声、大きいよ』
『だって、だって』
ミユキちゃんは涙を流して笑い続けている。他のテーブルのお客さんたちが何事だろう、とこちらを見ている。

『だって、ここ、ママの店だもん』
『えっ?!』
今度は僕が、大声になる。また、まわりの視線が突き刺さる。すみません、うるさいですよね。
マリコ母さんの店って、だって、住宅地にある普通のお家のようなところだよ』


このあいだの泊まりがけの講座のあと、受講してくださったカホコさんに『素敵なお店があるんです』と教えていただいたお店だ。そこのお店の羊羹がとても美味しかったのでお土産に、と思ってたくさん買ってきた。

ミユキちゃんとは『いとこ会』と称して毎月1度はお茶をしている。なので、この美味しい羊羹をマリコ母さんとミユキちゃんにも是非、と思って持って来たわけなのだけど…。

『ごめん、ごめん。この羊羹、ママも私も大好きよ。ありがとうね、タケちゃん』
マリコ母さんの店って、どういうこと?』
伯母のマリコは確かに、あちこちの喫茶店のオーナーではある。現在、経営しているのは22店舗だと聞いている。だけど、僕はその全部を把握しているわけではない。

『着物の若女将っぽい女の人、いたでしょう? 私たちよりも、かなり若い感じの』
たしかに、頼んだものを持ってきてくれた女性は着物を着ていた。顔をじろじろと見たわけではないので、年齢まではわからない。ただ、白い小指に嵌められた真珠の指輪が妙に、印象に残っていた。

『彼女ね、ママの友達なのよ。マキちゃんっていうの。私も何回か会っているけど、面白い子よ。三味線がとても上手なのよ』
マリコ母さんの交友関係の広さには、いつも驚かされる。元々が旅行好きで、旅先でいろいろな人たちと出会ってくる。30年以上も前に、外国のカフェで1度だけお茶を一緒に飲んだ左官職人さんとも、いまだに手紙の遣り取りを続けているらしい。

『お待たせしました。ピーチタルトのお客さまぁ』
若女将とは対照的な雰囲気のブルーに髪を染めたスタッフさんだ。まわりの席は若い女性がほとんどで、携帯のカメラでカラフルなパフェやかき氷を撮影している。ここはミユキちゃんが是非、一緒に行きたいと言ったお店だった。

果物を絵の具に、食器をキャンバスに見立てたデザートが若い女性に人気のカフェだそうだ。『カラフル』をテーマにしているからなのか、スタッフさんたちの髪の色も賑やかだ。ピンクにオレンジ、キウイフルーツのような鮮やかなグリーン、そしてアーモンドのような色も。まさか、ここにもマリコ母さんが絡んでいるということはない、だろう。多分。