ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

ティピカちゃんねる 10

皆様、ごきげんよう。ティピカです。最近では『看板猫』などという言葉もよく、耳にします。私のことも、そのように呼んでくださるお客様がいます。私自身はただ、相棒のジュンコのコーヒー豆を挽く音が聞きたくて店についてきているだけなのです。ですが、今回は少しだけ『看板猫』の名に値する仕事ぶりなのでは? と思って頂けるのではないかと思います。

 

ドアがそっと開きました。お客様ですね。

おや、リサさんではありませんか! ようこそいらっしゃいました。すりすりさせていただきましょう。

 

『ティピカさん、覚えていてくれたの?』

当然ですよ。猫好きのお客様のことは、特に印象深く覚えていますよ。きょうはお友だちとご一緒ですか。遠いところをよくお越しくださいました。

 

『わー、かわいい。猫さん、こんにちは』

リサさんのお友だち、はじめまして。あなたもチャーミングですよ。爪の模様が素敵ですね。

 

お2人が座ったので、私もリサさんのおとなりの椅子にお邪魔しましょう。リサさん、シャルルさんはお元気ですか?

 

 

『おいしそうなケーキが、たくさんあるのよ』

『ほんとだ。猫さんのおすすめは、どれですか?』

ティピカで結構ですよ、お嬢さん。そうですね、ジュンコの作るものは、どれでもおいしいですよ。だけど、あなたはプラムのケーキなんかがお好きなのではないかと思うのですが、いかがでしょうか? メニューの『プラムのケーキ』を前足でそっと、おさえます。

 

『え? プラムのケーキ? おいしそう。じゃあ、猫さんおすすめのこのケーキをください』

『私も、同じものにします』

リサさんは以前、来てくださったときはマドレーヌをひとつでしたが、きょうはアサミさんに合わせてケーキにしてくださいましたね。

 

ジュンコがコーヒーを淹れている間、リサさんのお膝へ。やさしく背中をなでてくれます。お友だちはアサミさんとおっしゃるのですね。

 

『猫さん、このケーキ、ものすごぉくおいしいね』

アサミさんはそう言って、私の頭をなでてくれました。気に入っていただけて、私も嬉しいですよ。そして、ジュンコに

『プラムのケーキ、おかわりください』

と言います。

 

ジュンコは照れたような表情で、最初よりも少しだけ、ケーキを大きめにします。気に入っていただけて、ジュンコも嬉しそうです。普段はあまり、ほめ言葉に反応しないのですが、アサミさんがおいしそうに食べる様子は、見ている私たちも楽しい気持ちにさせてくれるようです。

 

『アサミ、絶対このお店、好きになると思っていたわ』

『さすが、部長。好み、わかってくれているなぁ。今度はリョウくんも一緒に来ようよ』

リョウくん、リサさんのお好きな方ですね。私も是非、お会いしてみたいですよ。

 

『そうね。だけど、リョウちゃんはデッサン教室、休みたがらないわよね』

『リョウくん、自分ではデッサンが苦手だと思ってるみたいだね。そんなことないと思うんだけど』

『たまにはね、息抜きするといいわよね』

そうですよ、息抜きは大事ですよ。猫と遊ぶというのも、ひとつの手ですよ。

 

アサミさんは、ケーキのおかわりの後、鞄から小さなスケッチブックを撮り出すと、鉛筆で私を描き始めました。時々、私の絵を描くお客様もいらっしゃいますが、きっとして『動いちゃダメ』とおっしゃるのです。だけど、アサミさんはそうではありません。私がどんな体勢でいようと、行儀よく座った私を描くことができるのです。普段からよく観察していないと、こうはできないですね。だから私の背中の上のリサさんの手はそのままです。

 

アサミさんは私にスケッチブックを見せながら

『ティピカさん、似てるかな?』

と言います。似てるどころか、少し美化して描いてくれていませんか? おそれいります。ジュンコも

『凛々しく描いてもらえて、よかったわね。看板猫みたいだわ』

と言います。

 

アサミさんの絵は、デッサンの精度だけではなく、タッチに独自の雰囲気もあります。ご本人のようにどこか、ほんわりとしたやさしさが感じられますね。このプラムのケーキにも似ている気がします。いいものを見せていただきました。アサミさん、リサさん、どうぞ、ごゆっくりしてくださいね。私はちょっとだけ寝ることにしましょう。