ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

栞さんのボンボニエール 13

伝票の整理をしながら、いつものボンボニエールを開ける。チョコレートをひとつ食べながら、昼間にお客さんから聞いた話を思い出す。

 

『文房具屋さんの隣にね、小さなギャラリーができるらしいわよ』

文房具屋さん、マサヨさんのお店のことよね? 最近は看板猫のフクスケくんの活躍で、売り上げも上がっていると聞いていたけど。

 

電話が鳴る。ミユキさんだ。

栞ちゃん? 遅くなったけど、伝票の整理手伝いに行くわね』

ミユキさんも私も『伝票の整理』と言いながら、コーヒーを飲みながらお喋りしたいというのが、本当のところだ。

 

『クロワッサン、買って来ちゃった』

バターのよい匂いをさせながら、ミユキさんが店に入って来る。ボンボニエールをミユキさんにも差し出す。チョコレートをひとつ食べると、最近ずっと、お気に入りの『栗の町ブレンド』を挽く。

 

ミユキさんがコーヒーを淹れるところを、改めて見る。私もミユキさんから教わったのだけど、やっぱり、まだまだミユキさんにはかなわないな、と思う。

 

ギャラリーのことをミユキさんに話す。もしかしたら、マリコさんが関わっているのではないか、と思ったのだけど今回は違うみたい。

 

『ギャラリーはね、マサヨさんの息子さんのアイデアらしいわよ。お店に来る子どもさんたちがフクスケくんの絵を描くのを見て思いついたんですって』

 

フクスケくんが来てからは今までより商品の回転が良くなったので、在庫を置いていたスペースに余裕ができたそうだ。それで、そこをギャラリーにすることにしたという。

 

『今、パン屋さんで聞いた情報なのよ』

ミユキさんはクロワッサンの2個目に手を伸ばしながら言う。

 

伝票の整理よりも、クロワッサン優先の私たちだ。ギャラリーは今、準備中だという。子どもさんたちのどんな絵が飾られるのかが楽しみだ。マサヨさんがコーヒーを飲みに来たら、詳しく教えてもらおう。