ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

トモノリさん 1

オーナーが愛猫家だというこの店では、あちらこちらにさりげなく、猫の写真や小物が飾られている。水が入っているグラスはまるい紙製のコースターに載せられていて、そこにはまるくなって寝ている猫の絵がプリントされている。

このコースターは、猫の姿やプリントの色が幾種類もあり、コレクションしているファンもいるらしい。私もそのひとりだ。

いつものモカが運ばれてきた。深煎りのモカだ。浅煎りの方がお好みだという方も多いようだが、私はこの店で深煎りモカに出会ってからは15年以上、ずっと飲み続けている。

カウンターの横の本棚には雑誌や猫が登場する絵本が並んでいる。凝った装丁の『吾輩は猫である』がひときわ目を引く。これはオーナーが自分で製本したものだそうだ。

猫好きなら、皆タイトルぐらいは知っているであろう月刊誌を手に取る。カウンターでグラスを拭いていた栞さんがにっこりと
『それ、今朝はいってきたばかりよ』
と言った。

自分のテーブルに戻り、雑誌をゆっくりと捲る。表紙になった猫の飼い主のインタビューが載っていて、毎号たのしみにしている。強面のキジトラはなぜか、ユキという名前で、飼い主の鞄に入るのが日課らしい。急いでいるときは、困りますよ(笑)と書いてあるが、本当はそれほど困ってはいないだろうな、と思う。

何も言わずとも2杯目のモカが運ばれてくる。そして、これには必ずミルクが添えてある。考えてみると、この店との付き合いは妻や息子よりも長いことになる。