ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

トモノリさん 2

アベルがカラン、コロンと鳴って、女性の2人連れが入って来た。ねえ、この猫の傘立てかわいい。と早速この店の猫ポイントを発見している。まだまだ他にもあるのだよ、お嬢さんたち。どうぞ、ご堪能あれ!と、心の中で先輩風を吹かせる。ドアベルが鳴ると、ついそちらの方に目がいってしまうようになっている。あのとき以来ずっと。


ユキくんの飼い主さんのおのろけぶりに、こちらまで楽しい気持ちになる。この雑誌は他よりも、読者からの投稿をさまざまな形で取り入れていて、写真投稿、猫川柳、誌上フリーマーケットなどが誌面を賑わしている。私がこの雑誌を気に入っているのも、そんな理由からだ。それにしても…この強面のユキくんは山さんに似ている。


山さんは私が入社したての頃の経理課長だった。はじめて会ったときは、この仏頂面の下で仕事をしなければならないのかと、身の縮む思いがしたものだ。ある日、そんな私の腹を見透かしたかのように
『帰り、ちょっと付き合え』
と、連れて来られたのがこの店だった。

連れ立って店に入ると、ジュンコさんがいた。
山さんとジュンコさんは微笑み合って招き猫のようなポーズをした。
『お疲れさま。先にいただいていたわよ』

席に着くやいなや、私はジュンコさんから名刺のようなカードを渡された。色々な柄の猫のイラストが入ったメッセージ用のカードだ。

そこには美しい手書きの文字で

経理課・猫くらぶ
部長・じゅんこにゃん

と書かれていた。

じゅ、じゅんこにゃん? 私は呆気に取られてカードとジュンコさんの顔を交互に見ていた。
経理課長の右腕と言われ、女子社員たちからは厳しそうな先輩と敬遠され、普段はにこりともしない人が、こんなものを。

『あの…これは?』
『ふふ、これはまあ、冗談みたいなものだけど。課長のお宅の猫ちゃんとうちの猫が兄妹同士なの。そのご縁でね、時々ここでお喋りするのよ』
『猫くらぶ、と言っても俺達2人で細々とやっていてね。だけどジュンちゃんが今度の新人くんは絶対に猫好きだわ、あの顔は絶対にそうだから、山さんから声かけてみてよ。と言うものだから』
『わかるのよ。私の猫センサーに間違いはないわ』

ジュンコさんは私の目をまっすぐ見つめて言った。
『あなた、猫、大好きでしょう?』

図星だった。子どもの頃からずっと、まわりには猫がいた。嬉しいときも、そうでもないときも、猫たちは私にそっと、寄り添っていてくれた。

私も思わず、招き猫のようなポーズをして
『にゃー』
と答えていた。

ジュンコさんが得意気な笑みを山さんに向ける。山さんはいたずら盛りの我が子を見るような顔をしていた。猫好きに悪い人はいないよ、と言った誰かの言葉を思い出す。

この日から私は、一見クールな、だけど本当は心やさしい、まるで猫のような2人と共に『経理課・猫くらぶ』に籍を置くこととなった。