ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

サトルさんとモンブラン 22

玉子サンドのつけ合わせのピクルスを囓りながら、ヨシコが言う。

『きのうね、中学の同窓会があるって葉書が来たのよ。6年ぶりだって』

『出席するのか?』

『うーん、幹事さんには悪いけど、店があるし』

『そうか』

 

ヨシコは『制服がかわいい』というだけの理由で私立のお嬢さま中学に行った。そこで親友と出会ったわけだが、その友達というのが俺たちとは違って、お手伝いさんが数人いるような家に住んでいた。ミーハーな理由で入学したようなヨシコとも仲良くなるとは、お嬢さまとは懐が深いものだと当時の俺は感心していた。

『サトルちゃん、ホットおかわり』

『なんだ、ずいぶんゆっくりだな』

『姉さんがゆっくりしていらっしゃいって。そう言えば、姉さん夫婦も同窓会がきっかけだったのよね』

 

そういう話はよく聞くよな。そんなロマンチックな話とは関係ないけれど、この町に出張にきてからというもの、トオルと俺はやたらと関わるようになっている。中学の頃は特に親しかったわけでもないのだが。ついこの間も、ホワイトデーにタツオの焼き菓子と俺のコーヒー豆を詰め合わせにして、35箱ぶん用意してくれ、と連絡があった。タツオ夫婦にも手伝ってもらい、どうにかホワイトデーに間に合うように発送することができたのだ。俺の想像どおり、同僚たちとバレンタインチョコの数を競っていたらしく『前年比110%で圧勝ですよ』と、いかにも百貨店勤めらしい言い回しで高笑いしていた。ご苦労なことだ。

 

 

カラカラと引き戸が鳴る。タツオだ。

『サトルさーん、おつかれさまでーす』

俺たちは『研究会』という名のもとに、月に2回程度、お菓子とブレンドコーヒーの試作品を見せ合っている。と言うとたいそう仕事熱心なようだが、本当のところはその後の1杯飲みが楽しみなのだ。

 

タツオは少し仕事っぽい口調で

『あしたの午後便はモンブランいくつぐらいにしますかね』

と聞いてきた。俺も調子を合わせて

『そうだな、カルチャースクールの日だから、プラス10個にしておこうか』

タツオはにやにやして、いつもどおりの態度になると

『了解でーす』

と言った。奥方さまたち、俺たちは『ちゃーんと』仕事をしてるんですよー。

 

『俺のは、これでーす』

『フィナンシェか? 意外性がないな』

『まあ、食べてみてくださいよー』

『何だ? 発酵食品みたいな。これは…味噌か?』

『おー、さすがですねー。わかりましたか? これ、京都の老舗の白味噌なんですよー』

タツオの話だと、味噌はトオルが『先日は大変お世話になりました』と、一筆添えて送ってきたのだという。

 

『たくさん買ってもらったのは、うちの方なのに、恐縮ですよー。でも、この味噌すごく美味いんですよねー』

『あいつは自分が見つけたものが喜んでもらえるのが、楽しくてしょうがないんだよ。気にしないで、もらっておけよ』

まったく、バイヤーが天職だよな。俺が感心するのは、あいつは女性にだけじゃなく、誰にでもマメなところだ。『前年比110%』というのも肯けるよ。今回タツオが『俺、このブレンドに合うケーキ、作りますよー』と言ったこのコーヒーを我らが名バイヤーにも届けてみようか。