先生は教科書をめくって、私の描いたパラパラマンガを見直している。
『ここからの展開が面白いわよね。アサミさんのセンス、私、好きだわ』
そこは部長とリョウくんでさえも素通りした場面だった。
『子どもの頃、家ではマンガを買うことが禁止されていてね。学校でマンガの話題になるとついていけなかったの。それを見かねた栞ちゃんが、こっそり読ませてくれて。それがきっかけで仲よくなったのよ』
先生のお家は親戚もほとんどが教師をしていて、何よりも『勉強が1番たいせつだ』という考えの中で育てられたという。
『栞ちゃんが学校生活の楽しい部分を教えてくれたのよね。そうじゃなかったら、この仕事をしていなかったかもしれないわ』
先生が先生になってくれて、よかった。私は会ったことないけど、栞さんにありがとう、と思った。
『教師になって初めてもらったお給料でね、読みたかったマンガを全巻揃えたの。今でも、たいせつに取ってあるわ』
マンガの話をしている先生は、全然おとならしくなくて、同じクラスにいたら、きっと仲よくなっていただろうな、という気がした。
そして私も、先生が何度も何度も読み返しているという『吾輩は猫である』をもう1度、ちゃんと読んでみようと思った。仲のよい友だちおすすめの本のように。
ココアをひとくち飲んだ。すっかり冷めていたけれど、おいしかった。ふと、学生の頃の先生と栞さんの姿が浮かんできた。展覧会に出す絵には、この2人を描くことにしよう。