ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

常連さんの顔

目的に合わせて選ぶもの、一番わかりやすいのは洋服や靴かもしれませんね。言葉、声の調子もそうですね。猫さんなども、ごはんが欲しいときの声はしっかりと変えています。

茶店も待ち合わせにはこの店、美味しいケーキが食べたいときはこの店、などとその時の目的に合わせて行くことがあると思います。

本を読むことに集中したいときに行く喫茶店があります。お客さんの年齢層が高めで、静かなお店です。

常連さんらしい白髪の女性がスタッフさんに注文している声が耳に入ってきました。
『チーズトースト、いつもみたいに、パリパリに焼いてね』

このお店のチーズトーストは、とろとろになったチーズの上に胡椒をたっぷりとかけたもので、濃いめに淹れたコーヒーとの相性がとてもよいのです。

白髪で、きりりとした雰囲気の女性と『もっちり』とか『ふんわり』ではなく『パリパリ』という言葉があまりにも似合っていて、心の中で『かっこいいなぁ』とつぶやいていました。

同じトーストでも、焼き加減によってさまざまな変化を楽しめるものなのですね。

以前、朝が早い市場の側のとある喫茶店では市場で働く常連さんたちの好みのトーストの焼き加減を幾通りも覚えているというお話を聞いたことがあります。

パンの耳を取り除く人、つけたままにする人。
4等分に切りわける人、8等分に切りわける人。バターを多めにのせる人、ジャムだけをのせる人。

そのお客さんの顔を見ただけで、好みのトーストもパッと浮かぶのだそうです。そういう息の合ったお店が早朝からの市場のお仕事を支えているのかもしれませんね。

長年のお付き合いの中で育ったお店と常連さんとの関係に、憧れを感じます。家族とも友達とも違うのだけれど、なにか心の奥に通じ合うものがあるのだと思います。それは単に『目的』という言葉ではあらわせなさそうです。

トーストとコーヒーというシンプルな組み合わせだからこそ、思いの込め方で特別なものにもなり得る。そんな気がしました。