コーヒーを飲みながら、もうすぐ誕生日の友人のことを思い出しました。今は遠くに住んでいるので、簡単には会えません。
携帯メールなどがない頃からのお付き合いです。
なので、随分と手紙でのやりとりもしました。
手先が器用で、絵を描くのも得意な友人は一緒にお茶を楽しんだ数日後には、喫茶店で頂いたものをイラストにして送ってくれることもありました。
その中でとても印象に残っているものがあります。今でこそ、エスプレッソは日本の喫茶店でも当たり前に飲まれるようになりましたが、数十年前はそれほど多くのお店では頂けませんでした。
『このエスプレッソって、なんだろう。たのんでみようか』
テーブルの上に置かれた小さなカップを目にして、顔を見合わせます。
『小さいね』
『少ないね』
『うわ、凄く苦いよ』
と、お水を何杯もいただきました。
『お水、ジョッキでもらいたいね』
その数日後、友人が送ってくれたイラストには小さなデミタスカップとその何倍もの高さがあるジョッキが描かれていました。
友人の絵の上手さに感心する気持ちと、確かめもせずに、慣れないものを注文してしまったことに対して反省する気持ちが混ざり合います。
送ってくれた友人は、この手紙のことをまだ憶えているでしょうか。機会があったら尋ねてみたい気がします。
誕生日をお祝いするメールで尋ねるのも、よいかもしれませんが、できれば一緒にエスプレッソを飲みながら話がしたいです。
数十年前のように顔をしかめて
『凄く苦いよ』
と言わずにエスプレッソの味を楽しめるようになったことも嬉しい変化だと思っています。