ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

胡椒のお味は?

ときどき『1人で喫茶店にいても、間がもたない』という人がいます。

お友達との会話を楽しみながらのコーヒーも格別ですが、喫茶店は1人でいても聞くとはなしに聞こえてくる人びとの声やスタッフさんが給仕してくれる静かな気配なども含めて、充分に居心地のよい場所だと思っています。集まって咲く花も1輪で咲く花もどちらも目に楽しいものですよね。

花は寒さにも負けずに咲いてくれますが、ニンゲンは寒くなると、温かいものが食べたくなってしまうものです。入る喫茶店もホットサンドの美味しいお店にしましょう。


そのお店はふだん気軽に行くところよりは少しだけ、背筋が伸びるお店です。スタッフさんもエプロンではなく、ベストにスカートといったきっちりとした制服で応対してくれます。

窓側の席にすわって、街路樹や歩いている人を眺めたりと、1人で来たときならではの楽しさを味わいます。

ホットサンドがいかにも老舗、という風情のお皿にお行儀よく並んで運ばれてきました。
『お好みで胡椒をかけてお召し上がりください』と綺麗な胡椒の瓶も添えられています。

『お好みで』のお言葉に甘えて存分に胡椒をふりかけます。お料理上手は胡椒の適量を心得ているものだ、と誰かが言っていましたが、好きなものはたくさんいただきたくなってしまう、ということはありますよね。


過ぎたるは…とは、よくいいますが、そのとき思わず立て続けに2回、店中に響くようなくしゃみをしてしまいました。

胡椒でくしゃみ、だなんて昭和時代の少年マンガでもあるまいし。この静かなお店で何とも間の悪い。伸びていた背筋が縮まりました。

『1人で喫茶店にいても、間がもたない』

なるほど。こんな時、誰かと一緒に来ていたら
『何やってるのよ、もう!』と笑いながら助け船を出してもらえたかもしれません。

そっと、まわりを見渡します。

このお店のお客さまたちは、何事もなかったように、さらりと流してくださいました。

ですが、やっぱりちょっと恥ずかしかったです。
辛さを楽しむ筈の胡椒が、ほろ苦く感じたような気がしなくもありませんでした。