ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

此度のお茶請け2

以前に『よい本はお茶請けだと思う』ということを書きました。その考えはずっと変わらず、今でもそう思っています。

初雪も降り、なにか温かいものを読みたくなり選んだのは絵本作家・かこさとしさんの『未来のだるまちゃんへ』という本です。

かこさんの絵本は小学校の図書室でも、とても人気があり、出遅れると全部貸し出しされた後ということも珍しくありませんでした。

運よく借りられたときは本当に嬉しくて、ひとつの場面を飽きずに何時間も眺めていました。

かこさんの作品で特に印象に残っているのが、食べ物でも履き物でも、まるで図鑑のように何十も並べられているところです。そこで宝探しをしているような気分を楽しみました。

よい思い出と結びついている作者の本を『甘くて温かいココア』を注文するような思いで手にしたのですが、読み進めていくと『これはココアではない』ということに気づかされました。


かこさんが絵本作家になった背景には、敗戦で体験した苦難を子どもたちにはさせたくない、という強い思いがあったそうです。その思いをこう語っています。

『当時の大人は、私を含め、開戦にも敗戦にも責任があります』

『大人ではなく、せめて子どもたちのお役に立てないだろうか』

『生きていくというのは、本当はとても、うんと面白いこと、楽しいことです。もう何も信じられないと打ちひしがれていた時に、僕は、それを子どもたちから教わりました』


かこさんは弟子入りをしたい、と訪ねて来る若い人たちには『僕より、子どもたちに弟子入りした方がいいよ』と答えます。

かこさんは正式に絵の修行をしたわけではない、と仰っていますが、子どもの頃に『あんちゃん』と呼び、慕っていた絵の上手なお知り合いに描いて貰った絵を宝物にしていたお話があります。
『あんちゃん』は教える、というのではなく、見ている子どもたちがまるで自分で気がついたように思わせてくれたと回想しています。

高校時代には俳人中村草田男先生が国語の担当で、かこさんが趣味で作った文芸雑誌を褒めてくれたことがきっかけで俳句も嗜むようになったそうです。かこさんの絵本のリズムの心地よさは俳句の影響もあるのかもしれません。

ですが、その心地よさの奥にはかこさんの絵本に対する覚悟が秘められています。

『絵本なんて子ども相手の仕事だと見くびったら、そんなのは子どもたちにすぐ見破られてしまうのです』

『子ども相手だからこそ、むしろ小手先の技やごまかしは通用しない。人間対人間の勝負』


今回の『お茶請け』に選んだこの本は『ココア』ではなく、そのまま飲むには苦すぎるエスプレッソに泡立てたミルクを合わせた『カフェラテ』のようだ、という印象を持ちました。