ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

どちらが好きか

犬と猫、つぶ餡とこし餡、金色と銀色。
さらにもう一つ、コーヒーと紅茶。

どちらが好きか、と訊かれたら『どちらでもよい』
ではなくて『必ずどちらかを選ばなくてはならない』という組み合わせのような気がしませんか?

それぞれに根強いファンがいて、目には見えない境界線があるような組み合わせ。


ある人の曰く『お客さま用にインスタントコーヒーを買ったけれど、家はふだん紅茶しか飲まないから瓶の中で固まっちゃったの』

紅茶党のこの仕打ちに心を痛めるコーヒー党は少なくはない筈です。


先日、友人と午後から待ち合わせをしました。昼食の時間でもないので何か軽いものをいただこうと、かなり前に共通の友人から薦められていたワッフルが美味しいというカフェに行くことにしました。

お店に一歩入ると、もうワッフルの焼ける香りがあふれています。
席に着き、メニュー表を開いて唖然としました。
ずらりと並んだ紅茶の名前…。まるで辞書のようです。

ウバ、飲んだことある。キーマン、1番好きな茶葉。ダージリン、これは有名。まだまだ続きます。あとは、知らない名前ばかりです。
辞書ならば、知らない言葉が載っていて当然ですよね。

ページを捲って、やっと発見しました。ホットコーヒー、アイスコーヒー、以上。

多勢に無勢とは、こういうことなのでしょうか。


『ご注文はお決まりですか?』
『ワッフルとホットコーヒーをください』

少しの間。

寒がりの友人は帰りに備えて薄手のタートルネックを着ていたので、暑くなったのかもしれません。
『ワッフルとアイスコーヒー』

スタッフさんの目が『お客さまたち、ここがどういう店かはご存知ですよね?』と問いかけているような気がしなくもありませんでした。


このお店を薦めてくれた友人が相当な紅茶党だと思い出したのは、ホットコーヒーとアイスコーヒーがテーブルに届いた後のことです。
ワッフルが美味しいカフェ、ではなくて『ワッフルも美味しい紅茶専門店』の誤りだったのですね。


『悪いことしちゃったかな?』
『メニューの紅茶とコーヒーの温度差がね』

焼きたてのワッフルはとても美味しくて、さくさくとした食感を楽しみました。周りのテーブルの上には、美しい砂時計とティーポット、それにティーコゼが。
『さくさく』は薄氷を踏む音にとても似ています。
美味しいワッフルは冷めないうちにいただきましょう。そして猫のように、そろりそろりと移動しましょう。


『ワッフル美味しかったね』
『今度は紅茶が飲みたいときに来ようね』

出入り禁止になっていなければよいのだけど、と思っています。