ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

兎追いしかのカフェ

たまに立ち寄る喫茶店の深めのブレンドコーヒーが気に入っていて、そのお店ではほぼ毎回そのコーヒーをいただいています。
なのですが、先日はふと秋の気配に似合うシナモンの香りに惹かれてカフェラテを注文してみました。

いつものスタッフさんがちょっと意外そうな顔をしながらカップをそうっとテーブルの上に置いてくれました。
その瞬間、にっこりと微笑んでいるうさぎさんと目が合いました。カップの中に芸術の秋を発見。
どうしたら、牛乳とコーヒーだけでこんなに見事な絵が描けるのでしょうか。これが『ラテアート』なのですね!

敢えて携帯電話は鞄にしまったまま、静かにいただくことにしました。
うさぎさんを崩さないように、そうっと。
飲み干してしまうのが、なんだか勿体ない気がします。いつもより時間をかけて、ゆっくりと。


茨木のり子さんの詩の中の言葉が頭をよぎります。


それは レンズ

まばたき
それは わたしの シャッター



だから わたし
カメラなんかぶらさげない


この詩と一緒に思い出す失敗談がひとつあります。

以前、仕事で『ホッキョクグマの動き』についての資料を作るために動物園に行ったときのことです。

とりあえずは写真を、とカメラを構えるのですが、くまは自分の遊びに夢中になっているので、資料に役立ちそうな仕草がなかなか撮れません。心の中で『お願い!右手をあげて、こっち向いてー』などと語りかけるのですが、届かず。くまの動きを追って走っていっても間に合わず。
写真を撮ることだけに気をとられてしまい、肝心な動きそのものには全く目を向けていなかったのです。

半日以上くまのように駆けずり回ったあげく、必要な写真は撮れないまま閉園時間になってしまい、後日また出直すことに。

もし当時この詩を知っていたら、もっと効率よく仕事ができたのではないか、と。

それ以来、写真撮影に頼らずにたいせつなものを見つめる、ということも一つの選択肢になるのではないかと思うようになりました。

カップの中のうさぎさんは時々、耳の長さを変えながら、にこにことこちらを見ています。
スタッフさん、かわいいうさぎさんをありがとうございます。力作は心の中のアートギャラリーにしっかりと飾らせていただきました。


次はまた、いつものように深めのブレンドコーヒーを注文することでしょう。だけど、きっとうさぎさんもスタッフさんと一緒に微笑んでくれるだろうと思っています。