テーブルの上にはあんこがたっぷりのったトーストとブレンドコーヒーが置かれています。そこに出囃子が聞こえてきます。座布団の上には羽織を着たの師匠の姿が。
「えー、お笑いを一席申し上げます」
らくごカフェに来ています。
と、言いたいところなのですが、違います。
自宅のテーブルでインターネット配信の落語の動画を観ながらのブランチです。
ここ数年、落語を聴けるカフェが増えてきているらしいですね。
行ってみたいと思いつつも、なんとも奥が深そうな落語の世界。寄席の空気も知らない落語初心者がうっかりと立ち入ってよいものか、と二の足を踏んでいるところです。
ですが、知ったかぶりのご隠居、底力が計りしれない与太郎、したたかな花魁、空想がどんどん展開していく若旦那。
そして、絵に描いた家財道具だとは気づかずに盗もうとしてしまう、ちょっと間の抜けた泥棒。
みんなどこか憎めなくて、とてつもなく魅力的な落語国の住人たちには限り無いなつかしさを感じています。
なので、今回は念願のらくごカフェに『行ったつもり』になってみようと思います。トーストとコーヒーは『絵に描いたもの』ではないので、ちゃんといただけます。
トーストのあんこは数日前に煮ておいたもので、真夏以外はよく作ります。あずきは昆布を入れると早く煮える、と聞いたことがあり、それ以来ずっとその方法に頼っています。それに、昆布が入るとあずき本来の甘さも引き出されるような気がするのです。やわらかくなったら、てんさい糖を入れて煮詰めます。
てんさい糖はおだやかな甘さが気に入っていて、普段もよくお料理に使います。
お豆を炊いていると、なぜか『まめに丁寧に暮らせているつもり』になれるから不思議です。
本当は落語に登場する勘当寸前の与太郎も顔負けのナマケモノなのですけれども…。
コーヒーは『老舗喫茶店の主になったつもり』で淹れました。でも、こちらの方は腕がまったくついてきてくれません。いつも家で飲んでいるコーヒーのままです。残念。
師匠の軽快な語り口に聴き惚れながら、ふと思います。「コーヒーとあんこ、どちらもまめなもの同士、相性がいいみたい」
落語国の住人たちを真似て、空想の力で簡素なブランチでも楽しみながらいただけた、という話でした。
いつか『つもり』ではなく、本物のらくごカフェに潜り込めたときには、また報告させてくださいね。