ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

ミユキさん 2

言われてみると、確かにタケちゃんには『王子』と呼ばれる要素がないこともない。まずは、その語り口だ。静かでゆっくりしていて、時には女性的とさえ思える程の言葉を選ぶ。タケちゃんと話していると、自分が普段、いかに言葉に対して無頓着であるのかに気付かされる。

そして、誰にでもわけ隔てなくやさしい。そのうえ見た目も華奢な印象なので、絵本に出てくる王子さまのような恰好をしたら似合ってしまいそうだ。だけど、私は子どもの頃からずっと見ているので特に気にしたことはなかった。

『タケオ先生はよく、この店にも生徒さんたちとご一緒に来てくださっていますよ。生徒さんたちが目をハートマークにして、王子と呼んでいるので、私もつい』
お店のママさんは、そう言って笑った。
『先生は、王子は勘弁してくださいよ、と困った顔をするのですけど、その表情がファンにはたまらないみたいですね』
『目に浮かびます。いとこは子どもの頃から、本当にシャイでしたから。だけど、いたずらっ子のような面もありますよ』

私はタケちゃんが、大の猫好きである家のママのために編んでくれたワンピースの話をした。それは三毛猫のような柄のワンピースで、白地にところどころ茶色と黒のブチを思わせる模様が編み込まれていた。ママは
『三毛ちゃんみたいで可愛いわね』
と大喜びだったが、よく見ると後ろには猫の尻尾に見立てられた細長いパーツが縫いつけられていて、ぶらぶらと揺れていた。
『これじゃ、幼稚園の学芸会の衣装みたいだわ。まったく、タケオの悪ふざけったら』と苦笑いした。そう言いつつも、ママは三毛ちゃんワンピースを部屋着として愛用している。歩くたびに尻尾も揺れる。


カウンター席でモスグリーンの毛糸を編んでいた女性が、クスクス笑っている。
『このお嬢さんもタケオ先生の生徒さんですよ』
女性が私の方を見て会釈をしたので、私も
『どうも、タケちゃんがいつもお世話になっています』
と挨拶をした。


お米のシフォンケーキには、白いクリームが添えられていた。
『このクリームも、お米でつくっています。是非、一緒に召し上がってみてくださいね』


小麦粉が食べられない、という人のためにお米の粉で作ったパンがあるけれど、ケーキは初めて食べる。今までに食べたケーキよりもしっとりとして、やさしい味だった。ママさんの話によると、お砂糖の代わりにお米でできた水飴を使っているのだそうだ。クリームもなめらかで、初めてなのに何だか懐かしい味がした。タケちゃんが絶賛するのが、よくわかる。心がきゅん、とした。やっぱり日本人にはお米が合っているのかもしれない。

柔らかくてあたたかい毛糸に、やさしい甘さのお米のシフォンケーキ。どちらもタケちゃんの雰囲気に似ているような気がする。その柔らかさを子どもの頃は男の子たちから随分とからかわれたことがあって、学校生活があまり楽しくはなかったようだ。でも今はたくさんの生徒さんたちが『王子さま』と慕ってくれて、好きな編み物に専念している。タケちゃんはいつも楽しそうにしている。私にはそのことが、嬉しかった。