ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

リョウくん 3

普段はそんなにお喋りではないリサが雄弁になるのは、飼い猫のシャルルの話をするときだ。
アサミが言うとおり確かに『おじさん』という年齢になった猫だけど、長毛種で気品のある顔をしている。リサがリボンをつけたくなる気持ちも、わからなくはない。

俺は黙って2人のしている猫の話に耳を傾けていた。
アサミのスケッチブックの上には、どんどん猫が増えてきた。
『アサミ、この猫たち展覧会の絵に使わないの? とてもよく描けているけど』
『今回はね、もうテーマ決めちゃったよ。ほら』
そう言ってアサミはスケッチブックを捲った。
笑っている女の子の横顔がいくつか描かれている。

『この女の子、タカコ先生に似てないか?』
『あ、本当ね。この鼻のあたりとか』
『先生に似てる? そうかなあ? 今回はね、仲良しな女子高生が描きたくてさ。まだ、構図は決めてないけどね。2人は、どうするの?』
『俺はまだ、決まってない。だけど、お前がくれた苺チョコの色、ちょっと使ってみたくなったかも』
『リョウちゃんって、そういう色もこなせちゃうのよね。たしか、似た色のマフラーも持ってるわよね』
『そうそう、リョウくんには春のお花畑の色が似合うよ』
『それは、俺の頭の中がお花畑みたいだって言いたいのか?』
『ちがう、ちがう』
アサミとリサはクスクス笑っている。箸が転がっても、というやつだ。


『リサはもう決めたのか?』
『アサミが猫にしないなら、私、シャルルを描こうかな』
『リボンはつけるなよ。また怒るぞ』
『あら、シャルルは怒った顔もかわいいのよ』

『部長がシャルルさんを描くなら、私はおひさまも描きたくなっちゃうな。私たちの出品数も増えたことだし。なんか、猫とおひさまってすごくお似合いの組み合わせじゃない? 部長のシャルルさんの絵と私のおひさまの絵を並べて展示してもらいたいな。猫もおひさまも、見てるだけでしあわせな気分になれるよね』

アサミは特別ではないはずのことの中にも、ふとした楽しさや『しあわせ』をよく見つける。それがアサミの長所だと俺は思っている。だから、食べているときも本当に楽しそうに見えるのかもしれない。

それにしても…リサが小さなマドレーヌをまだ食べ終わらないうちに、フレンチトーストとかぼちゃプリンをすっかり平らげてしまう、というのはさすがにどうだろうか。