ことのはカフェ

カフェに纏わる由なしごとをそこはかとなく綴ります。

リョウくん 2

アサミはかぼちゃプリンを食べ終わると、何かを思い出したように、鞄を探り始めた。そして、小さな紙袋を取り出して言った。
『2人におみやげ。おいしそうな色だったから、クレヨン買っちゃった。この苺チョコみたいな色はリョウくんの。ピクルスみたいな色は部長のだよ。私のはね、ほら、かぼちゃプリンの色』


前の年に卒業した先輩が、2メートルを超えるような絵をクレヨンだけで描きあげた。黄色、オレンジ色、緑色そして、水色。この4色だけを使ったジャングルの絵だ。正面には迫力満点のライオンがいて、目が合うと本当に吠え掛かってきそうだった。

俺はクレヨンっていうのは、子どもの使うものだと思っていて、もうずっと使っていなかった。だけど先輩の絵に刺激を受けてからは、しばらく俺たちの間でもクレヨンが流行った。皆、何とかあんな凄い作品を仕上げたいと思ったのだが、誰も先輩の絵を超えることができないまま、ブームは下火になっていた。

『あ、そうだ。シュンスケにもクレヨンすすめてみようよ。あの子の絵だったら、クレヨンでわちゃわちゃーって描いたら、何かよさそう』
アサミは追加注文をしたカップケーキを食べながら、言った。

アサミは大食いで、ざっくばらんなように見えて、意外と部員の絵なんかは丁寧に観ている。リサ目当てで入部してきた1年生たちに、デッサンの仕方や絵筆の選び方を教えたのもアサミだった。

なるほど、シュンスケの絵は天真爛漫で、観ている人を自然と楽しい気持ちにさせる何かがある。職人技のように繊細にモチーフを捉えていくリサの画風とは、対照的だ。シュンスケがクレヨンを使いこなせたら、なかなかおもしろいことになりそうだ。


アサミは鞄から小さなスケッチブックを出すと、早速クレヨンを使って、キャットフードのコマーシャルの曲を口ずさみながら猫の絵を描き始めた。リサはクスクス笑って、その猫の頭にリボンを描き足した。

『家の猫にも、こんなふうにリボンを結んであげたの。そうしたら、ものすごく厭がって3日ぐらい遊んでもらえなかったのよ』
『だって、シャルルさんは、おじさんだもの。人間のおじさんだったら、リボンつけないよぉ』
『そうね。人間の歳にしたら、いつの間にかずいぶん年上になってしまったのよね』
リサはしみじみとした口調で言った。